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福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)82号 決定

抗告人 村井一郎(仮名)

相手方 野村正平(仮名)

主文

原審判を取消す。

相手方の後見人解任の申立を却下する。

相手方の後見人解任の申立及び本件抗告の各費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人は未成年者森田孝治の後見人であるが後見人就任以来今日迄右孝治の所有財産については善良なる管理者の注意義務を尽して管理し来り、以て、適正に後見の事務を処理して来た。然るに、原裁判所は抗告人が未成年者孝治の後見人としてその任に適しない事由があるとしてなした相手方の後見人解任の申立を理由あるものとして後見人を解任する旨の審判を与えたのである。然し乍ら、右審判は不当であるから之を取消し、相手方の後見人解任の申立の却下を求むるため本抗告に及んだというのである。

本件記録に徴すると、未成年者森田孝治についてはその親権者であつた母マチ子が昭和二十八年○○月○○○日死亡し親権を行う者がないため後見開始し抗告人が家庭裁判所の選任により昭和二十九年○月○○○日後見人に就職し今日に至つたもので、相手方は同年○月○日原裁判所に対し抗告人に於て後見人たるの任に適しない事由ありとして解任の申立をなし、同裁判所は同年八月十二日右申立を理由ありとして抗告人の後見人たることを解任する旨の審判を与えたことが明らかである。ところで本件記録編綴の森田孝治の戸籍謄本によると右孝治は昭和九年○月○○○日出生し昭和二十九年○月○○日を経過した今日に於ては既に成年に達したものであることを認むることが出来る。

そうだとすれば未成年者たりし右孝治のために存した後見人たるの地位は孝治が成年に達すると同時に当然消滅するに至つたものと謂わねばならない。従つて、既に後見人たるの地位を喪つた抗告人につき後見人たることの解任を求むる相手方の本件申立は既に此の点に於て失当たること明らかで却下を免れないものである。

よつて、相手方の申立を認容した原決定は不当で之を取消すべく、本件後見人解任申立及び抗告費用の負担につき民事訴訟法第四百十四条、第三百七十八条、第八十九条、第九十六条を適用し主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 森静雄 裁判官 竹下利之右衞門 裁判官 高次三吉)

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